住宅ローンの返済を滞納した場合の、競売や任意売却について
退職や疾病、社会情勢などで収入が急激に減少する、現代は様々な理由で住宅ローンの返済が困難になることがあります。もしローンの返済が困難になった場合、どのような影響があるのでしょうか。
住宅が差し押さえられ、競売にかけられる前に、どのような対応をとるべきかについて詳しく解説していきます。
目次
住宅に設定される抵当権とは
住宅ローンを組むと、その住宅に対して抵当権が設定されます。
抵当権とは、不動産を担保にした貸し付けを受けた場合、その不動産を差し押さえる権利です。
抵当権を設定する理由は、将来的に住宅ローンの返済に支障が生じた場合、融資を行った金融機関が抵当権を行使し、不動産を売却して債務を回収することにあります。
最終的に差し押さえられ、競売にかけられる
住宅ローンの支払いが遅れると、将来的には住宅が差し押さえられる可能性があるものの、即座に差し押さえられるわけではありません。
初めは金融機関などから何度かの督促がありますが、支払いが継続的に滞る場合は、段階的に競売に移行されることがあります。
競売の前に任意売却という選択肢
住宅ローンの支払いが滞り、競売に至るまでには通常、半年から1年ほどの時間がかかります。この間、滞納者は消極的に待つのではなく、能動的に対処することが重要です。放置すれば競売が進む可能性が高まりますが、「任意売却」という選択肢があります。
問題解決には早めの行動が必要ですが、住宅ローンが残っていると売却が難しい場合もあります。なぜなら、売却にはまず「住宅ローンの完済」が必要だからです。ただし、任意売却では「住宅ローンを完済できない」状況でも、金融機関との調整のもとで売却手続きを進めることができます。
住宅ローン滞納後の手続きに関する詳細
それでは、住宅ローンの支払いが困難になった場合、一般的な手続きについて説明していきます。
➀1~3 カ月目の滞納:催告書や督促状が届きます。
住宅ローンの支払いが滞ると、まず金融機関から電話や通知書が送られてきます。しかし、それでも支払いが滞ると、債権者である金融機関から督促状や来店依頼書など、より強い催促が届くことになります。
➁滞納 3~6 カ月目:個人信用情報に事故記録が記載されます。
催告書や督促状に対処しないと、個人信用情報機関に金融事故の履歴が残されます。 この履歴は通常、「ブラックリスト」として知られ、一度登録されるとクレジットカードや車のローンの審査が不利になります。事故の登録時期は金融機関によって異なりますが、一般的には約3カ月で行われます。
➂滞納 6~7 カ月目:期限の利益喪失(一括支払い請求)
この段階でも無視を続けると、「期限の利益を失った」という旨を示す通知が送られます。
「期限の利益」とは分割払いの権利を指し、この権利を失うということは「住宅ローンの残高を一括返済する」ことを要求されることを意味します。
➃滞納 7~9 カ月目:保証会社から代位弁済通知書が届く。
期限の利益喪失後、保証会社から「代位弁済通知書」が届きます。
代位弁済とは、滞納者に代わり保証会社が金融機関に住宅ローンの残債を一括返済することです。代位弁済通知書が届いた後は、金融機関ではなく、保証会社に残債を返済しなければなりません。
➄滞納 9~10 カ月目:担保不動産競売開始決定通知
代位弁済した保証会社は、残債回収のため裁判所に競売を申し立てます。
競売開始決定が出ると、「担保不動産競売開始決定通知」が送られてきます。
⑥滞納 10~16 カ月目:競売入札通知書が送られてきます。
競売にかけられた不動産については、裁判所が現状調査を行い競売入札が開始されます。
入札の結果、落札者が決定されると所有権は落札者に移り、強制的に立ち退きを求められることになります。
手続きの実際の期間は、多少前後することがありますが、一般的にこのような手続きが進められます。
任意売却の時期と利点
競売を回避するためには、任意売却という手段で不動産を売却することができます。任意売却が可能なタイミングや、競売と比較しての利点について、具体的に見ていきましょう。
任意売却について
住宅ローンの支払いが滞った場合、競売までの間に選択できる売却方法が任意売却です。
競売では通常、市場価格よりもかなり安い価格で不動産が売却されるため、競売後に住宅ローンを完済するのは難しい場合がほとんどです。
一方、任意売却では通常の売却と同程度の価格で売却できる可能性があります。家を手放すことは変わりませんが、売却価格が少しでも高ければ、残債を減らすことができます。
任意売却の適切な時期
任意売却のタイミングは、「住宅ローンの滞納から競売入札が開始されるまでの期間」です。裁判所から競売入札開始の通知が届いた時点で、任意売却を選択することはできません。
そして、単に「競売入札が開始されるまで」に任意売却を進めているだけでは十分ではありません。その時までに「売却手続きを完了させておく」必要があります。
住宅を売却するには、査定や見学者の案内、売買契約、ローン審査などの一連の手続きがあります。これらを競売入札が始まる前に完了させなければなりません。
住宅ローンの返済見通しが立たない場合、できるだけ早く任意売却の手続きを進めるべきです。
任意売却の利点
競売と対比して、任意売却にはどのような利点があるのでしょうか。
①競売より高値で売却可能
通常、任意売却は競売よりも高値で売却できる可能性があります。
先述の通り、競売入札が始まる前に売却を完了させなければならない期限があるものの、基本的に通常の不動産売却と同じ方法で進めることができます。
高値で住宅を売却すれば、売却後のローン残債を減らすことができ、返済計画が容易になります。
②周囲に住宅ローンの滞納が知られずに済む
競売にかけられると、物件の情報が一般に公開され、近隣住民や知人にも知られる可能性があります。
しかし、任意売却の場合は、周囲の人々に事情が知られずに売却することができます。
③金融機関と売却後の返済プランを交渉できる
任意売却後、残った住宅ローンの返済方法は、債権者である金融機関と話し合って決定することができます。返済が免除されることはありませんが、経済状況に応じて月々の返済額を柔軟に調整してもらえる可能性があります。
さらに任意売却の場合、金融機関との交渉により、売却代金から最大 30 万円まで引っ越し費用を負担してもらえる可能性があります。引っ越しの日程も金融機関や買主と協議して決定できます。
一方、競売では引っ越し費用は自己負担となり、引っ越し日も予め決められているため、強制的に立ち退きしなければなりません。
任意売却の流れ
任意売却の流れは次の通りです。
➀金融機関からの催告書や督促状が届く
住宅ローンの支払いが滞ると、金融機関から電話がかかってくるか、催告書や督促状が送付されます。
②金融機関や任意売却の専門家に相談する
不動産の売却手続きには時間がかかります。
そのため、催告書や督促状が届いた段階で、できるだけ早く金融機関や任意売却の専門家に相談しましょう。専門家はプライバシーを尊重し、他人に知られないよう配慮したメールや個室での対応をしてくれるでしょう。
③不動産の価格査定
任意売却を進めることになったら、通常の不動産売却と同様に不動産会社による価格査定が行われます。
ただし、任意売却には期限があるため、査定が適切に行われるよう、売却が間に合わないことのないよう注意が必要です。
④金融機関との協議
価格査定の後、提案内容に満足したら不動産会社と媒介契約を結びます。
その後、不動産会社が金融機関との交渉を進めます。
⑤不動産の販売活動
金融機関との交渉後、通常の不動産販売と同じ流れで販売活動が行われます。
広告や案内などの販売活動を行い、買い手が見つかって価格交渉が成立したら売買契約を締結し、買い手がローンの承認を得られたら決済~引き渡しとなります。
⑥引っ越しと売却代金の清算
買主のローン審査が承認され、ローンの実行日が決定されると、その日までに引っ越しを済ませます。
この段階で、金融機関との交渉によって、最大で約 30 万円までの引っ越し費用を助成してもらえることがあります。
住宅ローンを支払えなくなる 2 つの主な理由
住宅ローンを申し込んだ際には、返済計画を立てたはずなのに、なぜ途中で支払いが難しくなるのでしょうか。
支払いが滞る主な理由は次の 2 つです。どちらも、将来誰にでも起こりうる可能性があり、他人事ではありません。
理由 1:収入減による滞納
病気やケガで働けなくなったり、減給や転職、離婚などによって収入が減少するケースです。
急激な経済状況の悪化により、住宅ローンの支払いが困難になる人々が多く存在します。
事前の予防は難しいため対策としては、万一の場合に備えて住宅ローンを返済できるだけの貯蓄を準備することが重要です。
住宅ローン専用の口座を開設し、少なくとも約半年分の返済額、可能であれば 2 年分以上の資金を蓄えておくことが望ましいです。
理由 2:支出増による滞納
逆に、収入は変わらないのに支出が増加し、ローンの返済が困難になることがあります。
支出増加にも、前述と同様に、貯蓄しておくことで対処できますが、まずは「自身の生活水準に合った生活」ができているか、家計を見直して無駄な支出を削減することも重要です。
住宅ローンを支払えなくなった方の実体験
以下に、実際に住宅ローンの支払いに困難を抱えた方の経験談をご紹介します。
体験談 1:定年退職で住宅ローンの支払いに困難が訪れる
A さんは 35 歳のときに 35 年の住宅ローンを組みました。
しかし、会社の方針により 57 歳で定年退職が決まり、再就職したとはいえ収入は大幅に減少。住宅ローンの支払いが困難になってしまいました。
借り入れた当初は退職金でローンを完済できると考えていましたが、実際には想定よりも退職金の支給額が大幅に低く、ローンを完済することができませんでした。
結果として、ローンの支払いが滞り、任意売却を選択することになりました。大切な自宅を失い、老後に残債を抱えることになりました。
体験談 2:うつ病の発症による収入減
B さんは 30 歳のときに 5,000 万円の住宅ローンを組んでマンションを購入しました。
当初は会社の業績が良く、給与も順調に増えていましたが、管理職に昇進したことで残業代がつかなくなり、ローンの返済がやや苦しくなりました。
その後、管理職としてのストレスに悩まされ、うつ病を発症。
休職せざるを得なくなり傷病手当金は支給されますが、家族を養いながらのローン返済は困難な額でした。家族と協議の結果、任意売却を選択し、新たなスタートを切ることになりました。
住宅ローンの支払いに困ったら早めに相談を
経済的な状況が厳しくなり、住宅ローンの支払いが難しくなりそうな場合には、できるだけ早く問題解決のための相談をすることが重要です。
金融機関に支払い再計画を相談する
住宅ローンの滞納後にのみ選択できるのが任意売却です。
一方、住宅を売却するにはローン残高を一括で返済する必要があり、売却代金での完済ができない場合は不足分を現金で用意する必要があります。
そのため、住宅ローンの返済が難しくなった場合、任意売却か競売を選択する必要があります。しかし、一部の金融機関では、滞納する前に相談すれば、リスケジュールを検討してもらえるかもしれません。
リスケジュールは、住宅ローンの返済期間を延長して月々の支払額を軽減したり、一定期間は金利だけを返済するように調整する方法です。
支払いに苦しんでいる場合は、できるだけ早く相談することが重要です。実現可能な支払いプランを見直せば、競売や任意売却を回避できる可能性があります。
競売という選択肢より任意売却が適切だが期限に注意。
住宅ローンの支払いを滞納してしまった場合、競売か任意売却かを選ぶしか方法はありません。説明してきた通り、競売よりも多くのメリットがある任意売却の方が適切です。
ただし、任意売却が可能な期間は競売入札日の前日までです。
この日までに任意売却の手続きを完了させている必要があるため、できるだけ早く金融機関や専門業者に相談することが重要です。
滞納の前に行動すれば、住み替えで解決できる可能性もあります。
住宅ローンの支払いに困難が予測される段階で、売却を検討して賃貸物件に移るか、ローンの額を抑えられる物件を探すなどの対策が可能です。特に後者の場合、売却額よりもローン残高が多い「オーバーローン」の状況でも、新たに購入する物件を担保に不足分の融資を受けるローンが存在します。
どちらにせよ、ローンの滞納は深刻な問題です。問題を認識した時点で早急に行動することで、状況を改善できる可能性が高まります。
まとめ
・住宅ローンの滞納が起きた場合、競売や任意売却などの手続きやメリットについて詳しく解説してきました。多くの人にとって、住宅ローンの返済は何十年にもわたる長期間の課題です。経済状況が悪化する可能性があるため、これは他人事ではありません。
自分の手で手に入れた大切な家を失い、そのまま債務だけが残ってしまうことがないよう、返済できない可能性が現れた段階で、なるべく早く金融機関や不動産会社に相談し、最適な対処方法を見つけるよう努めてください。
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