洪水、津波、土砂災害のリスクがある不動産の売却における留意点は?
目次
はじめに
日本では年々自然災害が頻発するため、不動産を売却しようとしても、土砂災害、洪水、津波などの危険がある地域の不動産は避けられることが多いです。
今回のコラムでは、こうした災害リスクが高い地域の不動産をスムーズに売却する方法について説明します。
需要の低い地域の不動産売却には買取が有効
自然災害のリスクは不動産の売却にとってデメリットです。購入希望者はできるだけ安全な地域を選びたいと考えるため、被害を受けやすい地域の土地や家は一般的に売りにくい状況です。
ただし、売却が不可能であるわけではありません。
災害リスクのある不動産に特化した専門的な不動産会社ならば、直接購入の可能性があるかもしれません。
土砂災害のリスクが高い土地や家とは
土砂災害とは、激しい豪雨や地震により、急傾斜地で土砂流出、地滑り、崖崩れなどが発生する状況を指します。このリスクが高い地域では、住民の生命に危険が及ぶおそれがあるため、土砂災害警戒区域などが指定され、さまざまな制約や規制が設けられています。
土砂災害の危険性のある住宅や土地には、どのような制限が課せられているのか、詳しく見てみましょう。
土砂災害警戒区域(イエローゾーン)
土砂災害の危険がある地域は、土砂災害防止法に基づいて 2 段階に区分けされています。その一つが土砂災害警戒区域(イエローゾーン)です。
イエローゾーンに指定された土地には特別な建築制限は課されていません。ただし、そのエリアは安全性が確保されていないため、市町村が作成したハザードマップでイエローゾーンであることが示され、災害時の避難場所などが指定されています。
不動産売買の際、不動産会社はイエローゾーンに指定されていることを重要事項説明にて告知する法的義務があります。
土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)
もう一つの指定エリアが土砂災害特別警戒区域、レッドゾーンです。
レッドゾーンはイエローゾーンよりも危険度が高く、利用に関する色々な制限が設けられています。
この区域での宅地の売却には都道府県知事の許可が必要です。想定される災害に対処できるよう、崖の崩壊を防ぐ強化策などの対策が必要で、そのための費用がかかります。
さらに、危険が迫った場合、都道府県知事が区域外への避難勧告をすることもあります。イエローゾーン同様、レッドゾーンも重要事項説明の際に指定事項を告知する必要があります。
造成宅地防災区域
造成宅地防災区域とは、宅地造成等規制法に基づいて指定されたエリアを指します。この区域は、地震などの要因で地盤や地層が滑動し、災害が発生する危険性のある場所を示します。自然の傾斜地から作成された宅地だけでなく、人工的に築かれた崖地なども含まれます。
この区域内にある宅地の所有者は、都道府県知事から、災害予防のために必要な措置、例えば擁壁の設置などを求められることがあります。
不動産業者は、造成宅地防災区域に指定されていることを重要事項として説明しなければなりません。
近くに崖がある家・土地
崖に近い住居は、崖の崩壊によって土砂が流れ込む危険性があります。
安全性を確保するために、土壌が崩れずに安定するために必要な角度は約 30 度です。崖の下に建つ住宅は、崖の高さの 2 倍以上の距離が必要です。これにより、崖が崩れた場合でも、土砂の流入から住民の安全を確保することができます。
洪水の危険性が高い不動産とは
洪水の危険がある地域については、土砂災害のような法的指定はありませんが、2020年8月28日以降、水害ハザードマップの情報提供が義務となりました。
以前に洪水被害が発生した地域では、再度の水害リスクが高まることがあります。過去に床下や床上への浸水被害があった場合、これらの事実を秘匿することは、不動産の売却後に問題を引き起こす可能性があるため、一般的には売却時に重要事項説明で被害の告知が行われます。
津波のリスクが高い不動産とは
津波のリスクが高いエリアは、津波防災地域づくりに関する法律に基づいて、都道府県知事が津波災害警戒区域に指定します。
指定の対象は、津波による深刻な被害が予想され、住民の生命や身体に危害が及ぶ可能性が高いエリアです。災害の予防のためには、避難場所の確保や避難経路の整備など、特に警戒が必要なエリアとされています。
津波災害警戒区域(オレンジゾーン)では、建築に特別な制約はありません。
津波災害特別警戒区域(レッドゾーン)では、津波による浸水が予想される基準水面以下に、居住用のスペースを設置できないなど、厳格な建築制限が課せられています。
不動産取引において、どちらのゾーンに指定されているかは重要事項として説明する法的義務があります。
災害リスクを抱えた不動産を売却する際の注意点
自然災害のリスクを抱えた家や土地を売却する場合、災害の種類によってはリスクについて説明しないと、売却後に買主から契約違反として指摘される可能性があります。
どのような点に留意すべきかは、災害リスクのタイプに依存します。それぞれのリスクについて具体的に説明します。
①イエローゾーンにある物件を売却する際の注意点
土砂災害警戒区域(イエローゾーン)は、土砂災害が発生すると避難が必要となる可能性のあるエリアです。物件の売却がこのエリアに該当する場合、売主には買主に対して、その旨を重要事項として誠実に告知する法的義務があります。
重要なのは、物件を購入した時点で指定されていなくても、安心できないことです。イエローゾーンの指定エリアは、全国で 2017 年 3 月 31 日時点で 487,899 箇所が指定されており(レッドゾーンは 331,466 箇所)、購入後に指定される可能性もあるのです。
したがって、売却活動を開始する前に、所有物件がイエローゾーンまたはレッドゾーンに指定されていないことを確認することが重要です。
イエローゾーンは指定エリア外の不動産よりはリスクがあるものの、特別な建築制約はなく、売却価格も通常の相場から大きく逸脱することはまれです。しかし、近年、自然災害が頻発していることから、このようなリスクに対する意識が高まっており、慎重な買主も増えています。
したがって、売却時には避難場所や避難経路を明確に把握し、居住の安全性に関する情報を正直に伝えることが必要です。また、価格設定についても、状況に応じて柔軟に検討することが重要です。
②レッドゾーンにある物件を売却する際の注意点
レッドゾーンは、土砂災害が発生した場合に住民の生命に著しい危害が生じる恐れのあるエリアを指します。このような高い災害リスクのため、売買契約の前段階で都道府県知事の許可が必要です。建て替えを行う場合にも、想定される災害に対する構造強化などの条件を満たさなければならず、これに伴う費用も高額です。
そのため、レッドゾーンの物件は買い手が見つかりにくく、売却価格は通常の相場よりも大幅に下がりがちです。
不動産会社が土砂災害特別警戒区域の特性を理解していない場合、売却後に問題が発生する可能性があるため、売却を検討する際は、レッドゾーンの売却実績があり、信頼できる不動産会社に仲介を依頼することが重要です。
売却が難しければ「買取」を選択する
レッドゾーンに位置する家は、厳格な建築規制と高い災害リスクから、通常の仲介による売却では価格を大幅に下げても買い手が見つかりにくいことがあります。
売却価格を引き下げてもなかなか買い手がつかない場合、買取専門の不動産会社に買取を依頼することを検討してみましょう。買取専門の不動産会社は、建物をリフォームして再販売するためのノウハウを持っています。
したがって、市場で敬遠されることが多いレッドゾーンの物件でも、活用方法が見つかれば買い取ってもらえる可能性があります。売却が難しい場合や他に進展の見込みが薄い場合、ぜひ相談を検討してみてください。
③造成宅地防災区域にある不動産を売却する際の注意点
造成宅地防災区域内では、土砂災害や崖崩れなどの災害から被害を最小限に抑えるため、所有者に対して擁壁の設置など必要な対策を講じる責任が課せられています。
都道府県知事は、所有者に対して是正勧告や改善命令を出すことがあります。
この地域内にある不動産を売却する際には、重要な情報を説明する重要事項説明の義務があります。説明を怠るか、不十分な場合、売却後には契約違反に基づく損害賠償や契約解除の可能性があることに留意すべきです。
④周辺に崖がある不動産を売却する際の注意点
崖の近くにある土地や建物は、地震や豪雨の災害によって崖が崩れるリスクがあるため、建築に関して規制が設けられています。規制の内容は都道府県や自治体によって異なることがありますので、必ず地元の規制を確認することが大切です。
以下は「東京都建築安全条例」の一例です:
『第 6 条第 2 項 高さ 2 メートルを超えるがけの下端からの水平距離ががけ高の 2 倍以内のところに建築物を建築し、又は建築敷地を造成する場合は、高さ 2 メートルを超える擁壁を設けなければならない。』
この条例によれば、東京都では、自分の土地内に高さ 2 メートル以上の崖がある場合、その土地に建築物を建てるためには高さ 2 メートル以上の擁壁を設置する必要があります。
一般的に、崖の下に土地がある場合、その土地には規制がかかることが多いです。自治体によっては、この範囲での建築が認められないこともあります。
崖に隣接した土地や建物は、通常、市場価値よりも低い価格で売却される傾向があります。
擁壁の設置費用を考慮し、適切な価格設定や工夫が必要です。
⑤洪水のリスクが高い土地や建物を売却する際の注意点
過去に洪水の被害に遭った物件でも、都市部など利便性の高いエリアであれば、通常の相場価格で売却可能なことがあります。
なぜなら、都市部では駅からの距離や周辺環境など、利便性が重要視されるためです。
ただし、売却時には以下のポイントに留意する必要があります。
〈洪水の被害履歴は告知が必須〉
過去に洪水が発生したエリアは再び被災する可能性があるため、売却後のトラブルを避けるためにも、重要な情報として明確に告知しましょう。
特に土砂災害警戒区域などのエリアに物件がある場合、不動産会社には告知義務があります。一方、洪水の被害に関しては、その事実を不動産会社が知らない場合も考えられます。
洪水の痕跡が建て替えやリフォームで消えているかもしれませんが、売主は必ず実情を正直に伝えるべきです。洪水の履歴を隠して売却し、のちにその情報が明るみに出れば、契約不適合として損害賠償を求められる可能性があります。
洪水の被害履歴の告知は法的に義務付けられています。自身の利益を優先させず、買主に対して正確な情報を提供しましょう。
〈インスペクションの実施で問題を予防〉
過去に洪水被害を受けた家は、損傷を受けた建築部分があることが一般的です。修繕工事が行われ、外観が元通りに見えるかもしれませんが、建物の基礎に腐食の兆しが隠れている可能性があるため、警戒が必要です。
家を売却した後に、予期せぬ問題が発生すると、買主から契約違反の責任を問われ、損害賠償や契約解除を要求されることがあります。そのようなトラブルを事前に防ぐために、住宅の劣化状況や欠陥などを専門家による既存建物状況調査(インスペクション)で確認しましょう。
潜在的な問題を発見し、物件の品質を示す材料として提供することで、安心感を買主に提供し、重要事項説明で告知することにより、将来のトラブルを回避できます。
⑥津波の被害リスクが高い物件を売却する場合の注意点
津波災害警戒区域(オレンジゾーン)に位置する物件は、通常売却価格にほとんど影響しません。これは相場価格に近い価格で売却できることが期待されます。ただ、重要事項説明の際に津波発生時の避難場所と方法について誠実に伝えることが重要です。
一方、津波災害特別警戒区域(レッドゾーン)に位置する物件は、建築に関する厳しい制約があるため、通常の市場価格よりも価格が大幅に低くなることが一般的です。そのため、買主を見つけるのが難しい場合もあります。もし売却が難しいと判断された場合、買取専門の不動産会社に相談し、物件を買い取ってもらうことも一つの選択肢です。
まとめ
土砂災害、洪水、津波などの災害リスクが高い不動産を売却する場合、買手が見つかりにくいことがあります。特に土砂災害特別警戒区域や津波災害特別警戒区域であるレッドゾーンに指定されたエリアは、建築制限が厳しく、売却に時間がかかることがよくあります。
売却を円滑に進めるために、買取専門の不動産会社に売却を検討するのも一つの方法です。
レッドゾーンのような特殊な物件でも、専門知識を持つ不動産会社が物件を有効活用できる場合があります。
一方、イエローゾーンの物件は特別な建築制限がないため、通常の住宅と同様に売却が可能です。避難経路や避難場所について詳細に説明し、買主に安心感を提供することが重要です。
自然災害のリスクや過去の被害履歴については、重要事項説明の一環として正確に告知する義務があります。買主とのトラブルを未然に防ぐためにも、自己所有地がどのように規制されているかを役所で確認し、事実に基づいた情報を提供することが大切です。
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