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社長ブログ

ヨーロッパ滞在回想録vol.3 ~イギリス編~

紳士の国とは程遠いと感じていた英国ではあったが、ある時とてもまともな青年に遭遇した。

住み慣れてきた頃、友人の勧めで夜の街中で薔薇を売る仕事をしていた頃の話だ。

店舗を構えるわけでもなく、朝一番で市場に出かけて行き、一本50円くらいで購入したものを一輪づつラッピングしてそれらしく見せ、500円くらいで売るという仕事だ。

利益率は良いが、なかなかハードな仕事で、週末の18時頃になるとインド系やチャイニーズ系レストランをまわり、買ってくれそうなカップルを探す。

英国では、男性が女性に赤い薔薇を渡して気を引く習慣があるため、夜の商人が上手くその心理につけ込み、薔薇の束を抱えて目の前に現れるわけだ。

女性が期待して喜んでいるのに、平気で「要らない」という男性も多くいて、こちらの方が女性に申し訳なく、可哀想に思えて、残念賞として一本渡したくなることも度々あった。

そんな中でもステキな紳士はいるもので、「薔薇を一輪、彼女にどうですか?」

の私の問いに、即、「もちろん!」と答えて彼女に渡して、感激して喜びを体全体で表現している彼女にハグ&キスをして、私にまでも「ありがとう!」とウィンクまでする奴は、男の私ですら「惚れてまうやろー」と内心呟くほどだった。

生涯、忘れられない男

出逢った紳士の話に戻るが、それは彼のことではなく、レストラン巡回を終えてあたりも暗くなり、パブを一軒づつまわっていた時の話である。

パブといっても、古びた小さな角打ち屋みたいなものから、とても広く賑やかで、多くの仕事帰りのビジネスマン達がひしめき合う店まで数多く存在しており、ストレスから解放された喜びから飲み過ぎてはめを外す者もよく見かけたものだ。

事件は、その大きなパブの中で起こった。そのようなパブは、酒癖の悪い連中が他のお客様に迷惑をかけないよう、セキュリティとして、バウンサーと呼ばれるガタイの良い黒服の門番を入口に2人程置いている。

私は持ち前の愛想の良さで、彼らとすぐに打ち解け合う事ができ、彼らのお墨付きで店内を自由に徘徊し、薔薇を売ることができた。

いつものように、薔薇を持ってビジネスマンとキャリアウーマンの2人組に声をかけた。

カップルでなくとも、乗りで買ってくれる方もおり、とりあえずなりふり構わず誰にでも勧めるのはこのような商売の鉄則だ。

この男性、無表情で薔薇を一本抜き取り同僚の女性に渡した。受け取る理由もないため、そんなお金を払ってまでいらないです的な表情で困惑する女性。

私は支払いを待っていたが、一向に私を無視して女性と世間話をし始めた。

その時である。スッと私の横に黒服の門番の一人がやってきて、私に聞いた。

「この男性は、君に支払い済ませたかい?」

「いや、支払ってくれないのですよ。」と私。

そのまま男に向かって支払うように強く命じた。その男は、私を怒りの眼差しで睨みつけ、しぶしぶコインを取り出したのだが、沸点に到達したのか私にそれを投げつけて襲い掛かろうとした。

そこからである、この門番が予想していたかのように、私の前に立ちはだかり男ともみ合いになった。薄暗い中、音楽が大音量で流れていたが、一気に音楽は止み、電気が煌々とついた。

ほとんどの客は、何事が起ったのか分からない。身長190㎝近い男たちが、床を揉み合いながらゴロゴロと転がり続けていた。

出た、また「惚れてまうやろ~」って。見た目も好青年、色男だったが、中身まで正義感溢れてカッコ良かった。

謝れるものなら謝りたい

実は、今だから言えるのだが、その頃私は英国の滞在ビザが切れており、不法滞在をしていたため、その場に居続けることができなかった。彼らを見ながら冷静に考えたのだが、その後、必ず警察がやってきて原因を追究する。当然、原因は私だ。我に返り、やばい俺が捕まると、違う形での身の危険を感じた。(笑)

門番の彼には、本当に申し訳なかったが、私はこそこそとその場を立ち去ったのだ。これは、男としてとても情けない行為だったため、私の消すに消せない人生の汚点となっている。

もしも、“あの人は今” 的なテレビ番組で、“私が謝りたい人”を探してくれるなら、間違いなく彼を挙げるだろう。

しかしながら、あの時そのまま捕まっていたら、日本に強制送還になっていたに違いない。

もう顔も思い出せないし、どこの街のパブだったかも覚えていない。どう考えても、残りの人生で再会することはないだろうが、良き思い出として心に刻んでおきたい英国紳士だ。

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