不動産売却による健康保険料の増加事例とは?控除や扶養について
不動産の売却に伴う利益は譲渡所得として税金が発生しますが、同時に加入している健康保険の種類によっては、保険料も上昇する可能性があります。
この記事では、不動産の売却が健康保険に及ぼす影響や、会社員が利用できる控除制度の有効活用について詳しく解説します。
健康保険料の算定方法
不動産の売却益が健康保険料に与える影響は、自身が加入している健康保険の種類によって異なります。健康保険は大まかに 3 つの種類があり、それぞれの保険料算定方法を確認していきましょう。
① 健康保険 企業勤務の会社員が加入する保険で、給与額に基づいて健康保険料が算出されるため、不動産の売却による利益(譲渡所得)があっても保険料には影響しません。
② 共済保険 公務員や社会福祉法人などの団体職員が加入する保険で、サラリーマンが加入する健康保険と同様に、毎月の給与を基にして保険料が計算されます。そのため、譲渡所得が発生しても保険料は変わりません。
③ 国民健康保険 自営業者や無職の人などが加入する保険で、所得額に応じて保険料が決定されるため、不動産の譲渡所得も大きく影響します。
要するに、①と②の健康保険に加入している人は、不動産の売却益が発生しても、健康保険の自己負担額が上昇する心配はありません。ただし、扶養家族による譲渡所得がある場合には注意が必要です(詳細は後述)
不動産の譲渡所得
土地や建物などの不動産を売却して得た利益を指します。以下の計算式で算出されます。
譲渡所得 = 不動産の売却による収入 – (取得費 + 譲渡費用)
「取得費」とは対象の不動産をかつて購入した際にかかった費用を指し、「譲渡費用」とは今回の売却にかかった費用(仲介手数料、印紙税、登記手続きの費用など)を指します。
例えば、かつて 3,000 万円で購入した不動産を今回 5,000 万円で売却し、そのために 200 万円の費用がかかった場合の譲渡所得は、次のような計算になります。
5,000 万円-(3,000 万円+200 万円)=1,800 万円
この計算により、譲渡所得は 1,800 万円となります。
取得費や譲渡費用として計上できる経費の詳細については、国税庁のタックスアンサーのページで確認できます。
タックスアンサー(よくある税の質問)|国税庁 (nta.go.jp)
相続した不動産を売却する場合、取得費が分からない場合もあります。その際は、売却価格の 5%を概算取得費として計上することができます。
国民健康保険の保険料
それでは、国民健康保険の保険料がどのように計算されるのか、詳しく見ていきましょう。
・国民健康保険料は基準総所得金額が基本
国民健康保険の保険料は、基礎分、支援金分、介護分の 3 つを足して計算されます。
所得割、均等割などの税率や税額は自治体によって異なります。
均等割と平均割は、所得に関係なく一定の金額を負担しますが、所得割は「基準総所得金額」に保険料率を乗じます。
言い換えれば、不動産売却などで所得が増えると、その分保険料が上昇する仕組みです。
基準総所得金額
基準総所得金額とは、前年の総所得金額から基礎控除(33 万円)を差し引いた金額です。
総所得金額は、給与所得、公的年金などの所得、事業所得、譲渡所得などを総合した金額を指します。
例えば、個人事業主が本業以外に飲食店などでアルバイトをしている場合、事業所得に加えてアルバイトで得た給与所得も保険料の算定に含まれます。
譲渡所得は分離課税?
確定申告の経験がある方なら、「不動産の譲渡所得は分離課税だから、事業所得には含まれないのでは?」と思うことでしょう。
確かに、不動産の売却による譲渡所得は他の所得とは合算されず、分離課税方式で個別に税額が計算されます。これは、現行の税制度が所得が高いほど税率が高くなる累進課税を採用しているためです。
譲渡所得を一般の所得と合算すると、一時的に膨大な税金が課せられる可能性があるからです。
ただし、この税金の仕組みは健康保険料とは一切関係がありません。
確定申告書 B の所得金額欄を見ると、総所得金額は事業所得などを含む全ての所得を合算して求めるようになっています。言い換えれば、不動産の売却による譲渡所得が発生すれば、総所得額がそれに応じて増加します。
前述の通り、国民健康保険の算定根拠である基準総所得金額は、総所得金額から基礎控除の33 万円を差し引いたものです。
そのため、結果として譲渡所得が直接的に保険料に反映されるのです。
譲渡所得が保険料に及ぼす影響
それでは、不動産の売却による譲渡所得が発生した場合、保険料がどれくらい上昇するかを、具体的な数字で確認してみましょう。
例えば、年収が 200 万円の個人事業主が 500 万円の課税譲渡所得を得た場合を計算してみます。
比較してみると、500 万円の譲渡所得がある場合とない場合では、翌年の納付額に大きな差が生じることが分かります。
譲渡所得が生じた場合に会社員が留意すべき事項
会社員の健康保険料においては、不動産の譲渡所得との直接的な連動はなく、影響を受けません。ただし、注意が必要なのは、扶養家族である配偶者が不動産を売却し譲渡所得が発生した場合です。
① 扶養家族の外れる可能性
扶養家族の扱いは各健康保険組合によって異なりますが、通常、年収が 130 万円以上または被保険者の収入が 2 分の 1 以上ある場合、一時的に扶養家族から外れることがあります。
ただし、この措置は 1 年間のみであり、大きな収入がなければ翌年に再び扶養家族に戻ることができます。
② 国民健康保険への加入
扶養家族から外れる際は、各自治体で国民健康保険への加入が必要です。保険料は譲渡所得を基準に算定されるため、負担額はかなり高額になります。
大津市の例では、譲渡所得が 800 万円を超えると、最高限度額が適用され 1 年間に 116 万円、1 カ月あたり約 97,000 円の保険料が発生します。
③ 3000 万円特別控除の活用
しかし、実際には、譲渡所得が発生しても保険料が大幅に上昇するケースは少ないです。居住用不動産の譲渡にかかる 3000 万円の特別控除があるためです。
マイホームの場合、通常、この特別控除により、譲渡所得は実質的にゼロになります。この特別控除が適用される限り、扶養家族を外れずに健康保険料の上昇を回避できます。
ただし、この特例はマイホームにのみ適用され、別荘など他の不動産には適用されません。適用条件などに留意してください。
まとめ
・初めての不動産売却に際して、多くの人が税金に焦点を当てる一方で、健康保険への影響を考慮することは少ないかもしれません。
譲渡所得は分離課税が適用されるため、所得税は軽減されますが、国民健康保険に加入している場合、譲渡所得がそのまま保険料に影響を与え、保険料が増額する可能性があります。
翌年の保険料の急増によって家計が圧迫されないように、影響を考慮して十分な資金を確保するなど、慎重な注意が必要です。
なお、マイホームの売却による譲渡所得には、「居住用不動産の譲渡にかかる 3000 万円の特別控除」が適用され、これにより保険料の上昇を抑えることができます。
不動産を売却する際には、保険料への影響や受けられる控除などを事前に詳細に確認しておくことが重要です。
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