名義人が異なる不動産を売却できるのか?必要な手順と手続き
目次
はじめに
不動産は通常、名義人本人の同意が必要ですが、相続や所有者が亡くなるなど、様々な事情から他人名義の不動産を売却したい場合があります。この記事では、他人名義の不動産を売却する手順や留意点について詳しく解説します。
名義人が異なるケースとは?
不動産の名義人とは、一般的に言えば「所有者」を指します。
この記事では、名義人が異なるケースに焦点を当て、つまり「実際の不動産所有者ではない人」が売却手続きを進める方法について詳しく探ってみましょう。実は、こうしたケースは決して珍しいものではありません。以下で具体的な事例を見ていきましょう。
①家族が名義人である
祖父母や親など、高齢者が名義人となっている家は多いと思いますが、長期の入院や他の理由で住み続けることができなくなり、家族が不動産を引き継ぐことがあります。未使用の不動産を所有し続けることは、しばしば負担となります。そのため、多くの人がその不動産を処分しようと考えているでしょう。
ただし、基本的に不動産を売却できるのは名義人のみです。本人が認知症などで判断能力を失っている場合、売却手続きは難しいことがあります。
所有者が亡くなっても、相続手続きを行わない限り、不動産の名義は変わりません。たとえ名義人である祖父母や親が亡くなり、不動産を相続しても、名義人が自動的に変わるわけではありません。
通常、法定相続人が相続人になりますが、時折、法定相続人以外に相続される「遺贈」というケースもあります。名義人が自動的に変わることはないため、相続手続きを正しく行う必要があります。
②共有名義で持ち分割合がある
夫婦や兄弟など、複数の相続人が共有名義で不動産を所有していることがあります。共働き夫婦の場合、それぞれ住宅ローン控除を受けられるため、共有名義で家を購入することが一般的です。
また、兄弟間で相続の場合、たとえば3人兄弟なら3人で所有権を共同名義にすることがあります。この場合、不動産の面積で分けるのではなく、それぞれが1/3ずつ所有権を持つことになり、不動産は共有名義の全員の共有物となります。
さらに、親子間で共有名義を持っているケースも見られます。
③土地と建物で名義人が違う
土地と建物で名義人が異なる場合もあります。たとえば、土地が妻の名義で建物が夫の名義だったり、建物は所有しているが土地は借地権で親が名義人の土地に子供の家を建てたといったケースがあります。これは決して珍しいことではありません。
ローン審査で問題がなければ、このような事例でも建物を建てることは可能です。
原則として、売却は名義人が行う
不動産を売却できるのは、原則として名義人本人のみです。名義人が明確な売却の意思を持ち、手続きを進めることが大切です。
それ以外の場合、たとえ誰かが「名義人が売りたい」と主張しても、名義人の許可なしに他の代理人が勝手に売却することはできません。
不動産売却は通常高額な取引です。親族間でも、名義人の許可なく大切な財産を勝手に売却することはできません。
ただし、名義人が高齢で、本人が売却手続きを遂行できない場合もあります。認知症などで判断能力が不十分な場合、成年後見人の申し立てを通じて、代理人による売却が可能になります。
成年後見人になれるのは、配偶者や4親等以内の親族、または弁護士、司法書士、社会福祉士など専門知識を持つ人です。
親子関係がある場合、親から子に名義人を変更することで取引がスムーズに進行します。ただし、この過程で親が存命の場合、名義変更が「贈与」扱いとなり、相続よりも高額な税金がかかる可能性があるため、慎重に検討すべきです。
共有名義の場合は、持分を渡して名義を一本化
次に、共有名義の不動産を売却する場合について説明します。
夫婦や兄弟間の共有名義の不動産において、自分の持ち分を売却したいと考えても、通常は他の人が分割された持ち分だけを購入することは珍しいです。問題が生じることがよくあるのは、離婚に伴い夫婦共有名義の不動産を売却し解決する場合、または兄弟間でまとまった資金が必要で売却を検討する場合です。赤の他人が共有名義の不動産を購入する場面はまずありません。そのため、こうした状況では「分割された名義を一本化する」方法が現実的です。
夫婦の場合、合意を得て片方に名義を統一することができます。兄弟間で共有している場合、自分の持ち分を他の共有者の誰かに代わり購入してもらう方法も考えられます。ただし、必ずしも他の共有者があなたの持ち分を買い取ってくれるわけではありません。
共有名義の不動産を売却するには、全ての共有者の承諾が必要
他の共有者の持ち分を購入する場合、一時的に大きな資金が必要となることもあります。資金を用意できない状況も考えられます。この場合、全ての共有者が売却に同意すれば、不動産を一つのまとまった物件として第三者に売却できます。売却には「全員の同意」が必要で、1人でも反対があれば売却はできません。
通常、共有名義の全ての持ち主が売却契約に署名する必要があります。ただし、名義人が遠方に住んでいたり高齢で判断が難しい場合、名義人の誰かが代表して委任状を取得し、売却を進めることもできます。
土地と建物の名義が異なる場合、名義を統一すると売却がスムーズに
土地と建物の名義が異なる不動産でも、それぞれの所有者が独自に売却することは可能です。
例えば、土地の名義が親である場合に子どもが建物を所有し、親が土地だけを売却したり、子が建物だけを売却しても、理論上は問題ありません。
ただし、土地だけを購入しても、その土地の利用は制約を受ける可能性があることや、建物だけを購入しても、土地の所有者が建物の取り壊しを求めることがあります。
親子関係においては、名義が異なっていても問題が少ない傾向がありますが、他人同士の場合、このようなリスクのある不動産は避けられることが多いです。需要も限定的で、単独での売却は難しいことが多いです。
そのため、一般的には名義の異なる土地と建物を売却する際は、名義人のうちの一方がもう一方を購入し、名義を一つに統一してから売却することが現実的な方法です。
名義変更の手続き方法
売却や贈与のための名義変更は、基本的に次の手続きが必要です。
名義変更の申請場所は「法務局」です。
「司法書士」に手続きを依頼するのが一般的で、費用の相場は2〜3万円程度です。
必要な書類を自分で作成できるなら、名義人本人が変更手続きを行っても問題はありません。
共有名義人がいて名義を一人に統一するには、「贈与」「譲渡」「相続」の3つの方法が考えられます。
①贈与で名義変更
贈与とは、自身の持ち分を他人に対して無償で譲渡する行為です。
親族間の共有名義の不動産において、名義変更を行うために金銭のやりとりが行われず、通常は贈与が選択されることが一般的です。
ただし、贈与を受ける側には「贈与税」が課せられます。この税率は贈与の額に応じて異なるため、あらかじめ詳細を確認しておくことが重要です。
中には贈与税を回避しようと、相場よりも極端に低い価格で売買を行うケースもあります。しかし、価格があまりにも低すぎる場合、その差額が「実質的な贈与」であると判断され、みなし贈与として課税されることがあるため、慎重に検討すべきです。
②譲渡で名義変更
名義変更の最も一般的な方法は、金銭の対価を伴って持ち分を譲渡する方法です。
この記事では共有名義の部分に焦点を当てていますが、通常の不動産取引においても頻繁に利用される名義変更方法です。
持ち分の譲渡に際して、譲渡した方(売主)には「譲渡所得税」が課税される可能性があることに留意してください。
③相続で名義変更
実際には相続が発生していても、必要な手続きが行われていない場合、亡くなった家族の名義のままになることがあります。このような場合に実施するべき手続きは、相続に伴う名義変更手続きです。
前述した通り、事実上相続を受けていても、不動産の名義人が自動的に変わるわけではありません。相続人は、自身が名義人となるために特定の手続きを実施しなければなりません。
相続には「相続税」が課せられますが、贈与税よりも税率は低く、控除額も大きいため、高額な相続税がかかる心配は通常はありません。
名義変更の手続きの流れ
基本的な名義変更の手続きは、次のような流れになります。
1.必要書類の準備
2.書類作成・申請
3.名義変更完了
名義変更に必要な主な書類は次の通りで、代理人がいる場合には、他に委任状が必要です。
登記申請書
収入印紙
不動産権利証(登記識別情報)
印鑑証明書
住民票等(住所証明)
課税台帳(固定資産評価証明書)
登録免許税
名義変更に必要な費用
名義変更手続きにかかる費用は、主に申請時に発生する「税金」と手続きに関連する「報酬」の2つの要素から構成されます。
特に大きな負担となる税金の一部として、注目すべき点は「登録免許税」です。登録免許税の税率は不動産の固定資産評価額に依存しますので、事前に評価額を確認しておくことが大切です。
具体的な例を挙げれば、固定資産評価額が2,000万円で、名義変更が贈与に関連する場合、登録免許税は40万円になります。
また、司法書士への支払いに関する報酬の相場は通常50,000円から100,000円の範囲内に収まります。
自分で名義変更手続きを行う場合には、この報酬の支払いは不要となります。費用をできるだけ抑えたい場合には、自己手続きを検討することも一つの方法です。
名義変更後に注意すべきこと
名義変更が完了したら、必ず確定申告を行いましょう。
贈与の場合は「贈与税」、譲渡の場合は「譲渡所得税」、相続の場合は「相続税」がかかることがあり、どの方法で名義変更を行うにせよ、税金の支払いが発生する可能性があります。
それぞれのケースにおいて、税金の計算方法や該当する特例措置が異なりますので、最新情報を確認するために国税局のウェブサイトなどを参照してください。
計算結果によっては、実際に税金を納める必要がない場合もあります。しかし、他の収入がある場合、すでに支払った税金が還付される可能性があるため、確定申告を行うことはおすすめです。確定申告を怠ると、過払いした税金を戻す機会を逃すことになります。
確定申告の期限は通常2月中旬から3月中旬です。この期間内に、忘れずに申告を行いましょう。
まとめ
事実上相続したものの、手続きをしていないために自分の名義になっていないという場合や、夫婦や兄弟で共有名義にしている不動産について、売却方法や注意点を詳しくお伝えしました。
売却しようとしたら「名義人が違う」というケースは、案外多いものです。
共有名義の場合は、持ち分をまとめて名義を一本化することが売却の早道。贈与、譲渡など、どの方法が最適かを所有者同士で協議し、全員が納得できる答えを見つけて、大切な財産を生かしていってください。
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